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培養庫

inc.jpgたまご(卵子・胚)は、「培養液について③」でお話ししたdishに入れて、培養庫(インキュベータ)内で保管・培養されています。たまごの発育には多くの因子が関係していますが、温度・PH等の培養環境を一定に保つことも大変重要なことです。この役割を果たすのが培養庫です。

 

たまごには快適に過ごせる温度があるため、庫内は生理的環境に近い37℃程度に保たれています。培養液のPHは7.2~7.4の弱アルカリが適当ですが、たまごが呼吸することで酸性に傾きます。庫内の炭酸ガス濃度を5%に調整することで安定させています。体内の酸素濃度は大気中(約20%)に比べて大幅に低いため、約5%の低酸素状態に設定されています。また、培養液の蒸発による浸透圧の変化を防ぐために湿度は高くなっています。

 

 

 

 

 

 

 

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培養液について③

培養液について①、②のつづきです。以前にも "たまごの培養" で少しふれましたが、たまご(卵子・胚)を培養するときは、dish(ディッュ) という特別な容器に入れた培養液の中にたまごをそっと置いてあげます。たまごはピペットというガラス製の細いストローのような管で培養液ごと吸い上げて移動させます。培養の経過とともに、dish と培養液は交換していくのですが、この時培養液の組成も変化させていく方法が一般的です。


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左から順に、「採卵後から媒精後翌日まで」、「受精卵から分割期胚まで」、「分割期胚から胚盤胞まで」使用している培養dishです。それぞれ、ピンク色に見えるところが培養液の入っている部分です。受精後は個別培養といって「小さい培地」ひとつに対して胚をひとつ入れて培養しています。どれだけ小さいかというと、左の写真のdishの培養液(真ん中のピンクの部分)は1ml(1000μl)入っているのに対して、中央と右の写真のdishの培養液(ピンクの丸い点に見える部分)は20μlと50分の1です。

体外受精において、培養液や培養方法は卵子・精子・胚に直接影響を与え、その後の胚の発育はもちろん着床、妊娠にまで影響を及ぼす重要な役割を担っています。これまでの膨大な研究により、培養液や培養方法は日々進歩してきました。当院でも、検討を重ねて、成績の良い培養液を選択して使用していますが、人間と同じように、ひとつひとつの細胞にも個体差があって、全ての卵子・精子・胚にとって最高の培養液と培養方法を選ぶことはなかなか難しいのが現状です。

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培養液について②

現在、様々なメーカーから何種類もの培養液が、開発、販売されていますが、今後もその開発は止まることは無いのではないかと思われます。それは、体外受精において、胚の培養液が体外受精で重要な因子であり、まだ完全に完成されていないことを意味しています。では何種類もの中からどうやって培養液を選べばよいのでしょうか? 残念ながら、答えは使用してみるしかありません。当院でも、グループ施設のこれまでの多くのデータを解析して、より良い成績が得られたものをメインの培養液として使用してきました。さらに、培養液の種類に加えて、培養方法も成績に大きく関与しています。体外受精の培養はとても小さな空間で行われるものですが、本当に深淵な世界だと思います。

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培養液について①

体外受精において、培養液は、卵子・精子・胚に直接影響を与え、その後の胚の発育はもちろん妊娠にまで影響を及ぼす最も重要な因子の一つであり、必要不可欠なものと言えます。

ヒトの体外受精に用いられる培養液にも歴史があります。1985年にQuinnにより、ヒト卵管液の成分を基にした単純な組成からなる培養液 (HTF) が開発されました。HTFは従来の培養液に比べて品質管理が容易で安定した成績が得られたため、広く使用されるようになりました。1996年にGardnerらは、初期胚培養用と後期胚培養用で異なる連続型培養液 (Sequential Medium) を開発し、胚盤胞までの長期胚培養を可能にしました。これを契機に、胚盤胞までの培養が盛んになりました。

そもそも胚の代謝は、発育のステージにより必要な栄養素が異なります。Sequential Mediumはこのような胚の代謝を考慮し、発育時期に特異的な組成で培養を行うという考えに基づいて生まれました。これに対して、胚自身が必要な栄養素を選択・吸収し、利用するのではないかという考えから、受精以降一連した組成で培養を行う培養液も開発されています。

to be continued

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通常の体外受精と顕微授精

卵子に精子をふりかけて受精を待つ「精子おまかせコース」を、「通常の体外受精」と言います。となると、卵子に精子を一匹入れ受精を待つ顕微授精は、「通常ではない体外受精」なのでしょうか?

体外受精:IVFは、約30年前に誕生しました。その頃は、まだ媒精(卵子と精子のお見合い)方法といえば、「精子おまかせコース」しかありませんでした。それから約10年後、技術の進歩により、顕微授精ができました。そこで、「顕微授精」と「精子おまかせコース」を区別するため、「精子おまかせコース」にも呼び方をつけましょう、となりました。そしてついた名称が「Conventional IVF」だったわけです。

一般的に、「Conventional IVF=通常の体外受精」と訳されますが、Conventionalには、従来の、という意味もあるので、「顕微授精よりずっと前から行われている=従来の体外受精」というほうが、しっくりくるのかもしれません。つまり、顕微授精は、「通常ではない体外受精」ではなく、「通常の体外受精より後にできた媒精方法の一つ」ということなのです。

日本産科婦人科学会の統計処理でも、「体外受精」と「顕微授精」に分類されていますが、本当は、「顕微授精」も「体外受精」のひとつなので、なにかしっくりきませんね。もっと明確な用語が提案されるといいなあと思っています。

 

 

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